平成14年10月28日レジュメ 鈴木 邦江
(仮題)大学は地域の人づくりにどのように貢献しているのか/開かれた学校づくり
今後の調査予定@宇都宮市内の各大学が地域に向けて行っていること
A上記が行政と連携していることがあればその内容
T.大学開放について
大学開放の目的
だれでも大学教育に参加出来ると言う意識改革。
大学開放を形成するもの
@ 大学教育を受けたいと言うニーズが市民側にあること
A 大学側に市民にも大学教育を提供しなければならないと言う義務感があること
※主導は大学。大学の意識改革を導いたのは行政指導。具体的には18歳人口減少による経営危機に対する大学制度運用の柔軟化・生涯学習センターの設置奨励。
日本の大学開放論の特色
@ 大学開放の必要性と大学経営の危機
18歳人口の減少による顧客確保の対象が成人であるとするものと、産学提携の観点から大学を活用した人材育成を行うと言う主張がある。
A 大学開放は生涯学習活動の一環とされる点
生涯学習と関連づけられて成人教育として行うと言う観点の欠落。カルチャーセンターの大学版。(ここで言う生涯学習の概念とは、遊びや楽しみまで含む広い人間形成概念であり、いつでも、どこでも、だれでも学習が出来ると言うものである。)
B 大学開放は大学の地域社会への奉仕機能と捉えられている点
地域社会のニーズを受け入れると言うアメリカの大学機能の影響があるが、大学による地域社会への奉仕と言う概念が、わが国の大学の機能論において成立するのかどうか疑問である。
C 大学開放の定義が曖昧である点
「大学が一般市民に対して大学教育を開放すること」と定義されている。しかし、学問に対する考え方がアカデミズムなものであった日本の大学が学問はよりよく生きるための道具であり、州立大学には「よき市民」を育成しようと言う考えがあるアメリカ型と同じ捉え方では問題があるとする見方がある。
Extension of
University Teaching(大学拡張教育)
欧米ではコミュニティへの公共サービスも大学の重要な使命と認識されている。ハーバード大学は1697年の創立時より地域社会に向けた生涯学習を行っている。アメリカではほとんどの大学が公開講座を設け、大学で正規に学べない人にも安価で教育の機会を与える努力をしている。生涯教育は1960年代にOECDやユネスコが提唱。日本では主に1964年に社会教育審議会答申で「大学開放の促進について」が出されて以来、公開講座を開設するようになった。
University Extension(大学拡張)
大学が若者ではなく成人市民を対象として教育を広く考えること。これをわが国では一般に「大学開放」と呼んでいるが、学術用語としては大学拡張が適当である。
大学拡張の方向性
@ 社会人を正規の学生に迎える
例)新入生(学歴補充)、科目等履修生(聴講生制度の発達したもので資格取得あるいは許容を修めることが目的)など。学位取得を目指す成人を対象とした大学教育は、特定の興味のある分野だけを体系的にかつ主に先端の技術や思想・原理・研究法を学ぶ大学院教育を成人へ開放することが現在の需要にあっている。そのためには夜間大学院、昼夜開講制、入試選抜法などの受け入れ体制の充足が必要である。
A 公開講座を組織的に拡大する
社会生活を送っている成人の場合、正規の履修は難しい。その点、単位履修に関係なく特定の科目の授業を聴ける点が需要にあっている。しかし受講生の問題意識にあわせて授業を展開させる必要がある。
大学開放が持つ問題点
1.大学は生涯教育のどの部分を担当するのか
2.大学教育と成人教育はどのように違うのか
3.成人にとって学習とはどういう意味か
4.成人の特性を生かした大学教育はどのようにあるべきか
5.夜間大学院を開く場合にはどのような編成がなされるべきか
6.成人の組織的・体系的な学習はどのように進められるべきか
U.日米の大学公開講座の歴史・文化的背景
アメリカ
一般社会人に対する大学教育の概念は1800年代半ばに提唱された。モリル法により、「従来の科学的あるいは古典的な学問は、そのまま遵守した形で、より実際的な農業と機械技術に関する学問の諸分野を教授するということを主な目的に掲げる」州には、連邦国家より少なくとも一校は大学を設立するため、土地が分け与えられた。この無償払い下げによって建てられた大学は、一般市民に高等教育の道を切り開いた。
日 本
近代の大学は1800年代後半に政府が作った帝国大学の制度に基づいており、国の利害と密接に結びついていた。帝国大学がエリートと非常に意欲的な一般の人々を教育する機関であり、私立大学は1918年の政令まで認められなかった。1991年7月の大学設置基準の大幅な改正により、政府による管理よりも自主的な大学経営が有効であると認識されるようになった。
大正期から昭和の初めにかけて官立の高等教育機関で成人教育講座を全国的に行う試みが見られたり、1946年には文部省委嘱大学開放講座が行われた。しかし、本格的な取り組みは生涯学習思想が導入されてはじめて、大学に専門部局が成立してからである。その最初の試みは国立大学では東北大学大学教育開放センター(1973年8月発足)であり、私立大学では早稲田大学エクステンションセンター(1981年4月発足)である。
日本の“学び”の認識変化
これまでの学校教育では知識の習得に偏りがちであった教育から、自ら学び,自ら考える力などの「生きる力」を育成する教育へとその基調を転換し,ゆとりのある教育環境の中で,生き生きとした教育活動を展開する必要があるとしている(第15期中央教育審議会の第1次答申)⇒アメリカ型へ
大学公開講座
大学公開講座は,大学における教育・研究の成果を直接社会に開放し,地域住民等に高度な学習機会を提供するもの。開講される講座数や受講者数は,年々増加傾向にあり,平成10年度には,国公私立を合わせて1万1,477講座が開設され,約75万人が受講しており,大学は地域住民の生涯学習機関として積極的に取り組んでいる。
1991年には500大学中約400校が合計300の講座を開設。受講生数は4000人強。講座内容の内訳は「教養(文化・教育)」61%、専門職業13%、その他ほぼ同じ割合でスポーツ・語学・健康・趣味分野。
【問題点】
大学公開講座あるいは生涯教育講座は日本において比較的新しいものであるため、講座を運営する諸機関の持つ使命・基本問題・社会的役割・将来は未確認要素が多い。公開講座・教職員・受講生に対する評価基準は現段階では確立されていない。修了証書や専門的な職業訓練を求める学生は他の教育機関に流れる傾向がある。
大学の他の教育機関
固定観念に縛られた従来の教育制度とは対照的なものとして、民間予備校・専門学校・企業など。地方自治体による地域社会センター公民館などの文化センター・図書館・博物館。デパートや新聞社によるカルチャーセンター。大学公開講座の受講生の学習目的はカルチャーセンターのそれと類似しており、ある大学が行って調査では67%が一般教養の修養、18%が自分の人生を豊かにするためであり、仕事・職業のために受講している人は14.5%であったと言う。
V.文部科学省の動向
社会人の大学等でのキャリアアップ
近年の経済のグローバル化や技術革新,労働者の就業意識の多様化の中,社会人が生涯を通じて最新かつ高度な技術や能力を身に付けるための学習ニーズが高まっています。ま
た,今後の産業構造改革に伴う新たな雇用ニーズや労働移動の増加に対応するためにも,質の高い人材の確保のための社会人の再教育は,社会全体の要請ともなっており,特に,大学・大学院や専修学校等の高等教育機関が果たす役割に対する期待が高まっています。
文部科学省では,従来から,社会人の大学や大学院へのアクセスを容易にするため,社会人特別選抜や科目等履修生制度,夜間・昼夜開講制の導入,サテライト教室の設置,専門大学院や大学院修士課程1年制・長期在学コースの制度化等の措置を講じるとともに,「いつでも,どこでも,誰(だれ)でも」学ぶことができる放送大学の整備,専修学校における雇用・能力開発機構,都道府県からの委託による職業訓練の実施や人材育成のための教育プログラムの開発,公開講座の実施等により,社会人の高度な学習ニーズに対応するための様々な取組を行ってきました。更に,今後,雇用の流動化や中高年ホワイトカラーの離職が予想される中で,意欲ある社会人に高度な能力開発の機会を提供するとともに,離職者等が誇りと生きがいを持って再就職のために学ぶ機会を整備する観点から,大学等での社会人のキャリアアップのための再教育が一層重要になってきています。 ←その在り方は?
『このため,文部科学省では,大学・大学院,専修学校等におけるキャリアアップを目指す社会人向けの先導的なプログラム開発や講座の提供等の推進,サテライトキャンパスやe-ユニバーシティ(情報通信技術を活用した遠隔教育による大学教育)の整備を行うとともに,1年制の専門大学院の制度化など社会人が学びやすい環境のための制度改善を図り,今後5年間で100万人規模を目標に大学・大学院,専修学校等での社会人の受け入れを飛躍的に拡充していくことを目指した「社会人キャリアアップ100万人計画」の推進に取り組んでいるところです。』
更に,大学・大学院等における教育訓練給付制度の講座の指定範囲の拡大等や委託訓練の実施により,社会人のキャリアアップの機会の更なる拡充を図るために,厚生労働省において,文部科学省と協力し,関連する運用基準等の改正が行われたところです。
学習成果の評価と活用等
地方公共団体においては,生涯学習センターや公民館等で開設された講座の修了者に対し,修了証や認定証を交付し学習成果を評価し,学習者の地域参加や更なる学習への意欲を喚起するとともに,学習成果を生かして地域における学校教育,社会教育等の指導に当たるボランテイア人材として登録・活用するなど,地域社会の発展にもつながる学習成果の評価・活用の仕組みづくりが進んでいます。
また,文部科学省においては,生涯学習審議会答申「学習の成果を幅広く生かす(平成11年6月)」の提言等を踏まえ,学習した経験や知識がどの地域や団体でも通用するように,学習歴等を公的な機関が証明する仕組みとして,個々人の学習成果を記録する「生涯学習パスポート」(生涯学習記録票)に関する調査研究を行っています。
更に,地域住民の能力を生かした魅力あるまちづくりを目指し,地域のNPOなどの民間団体が中心となって,地域の課題に関する住民に対する学習機会の提供や学習成果をまちづくりに生かすボランテイア活動等を展開している例も見られます。
成人教育・学習活動の促進; 学習機会の整備と広域的な学習サービス網の整備
近年の急激な社会構造の変化に伴う人々の価値観や行動様式の変化を背景として,人々の学習要求は高度化・多様化しており,これらに対応した学習機会を提供している教育委員会や社会教育施設などの主催する学級・講座などの事業は,重要な役割を果たしています( 図2-1-2, 図2-1-3)。
文部科学省では,人類の将来の生存と繁栄にとって重要な課題である環境問題など,人々が社会生活を営む上で,理解し,体得しておくことが望まれる現代的課題や地域の実状に応じた学習課題に関する学習機会を提供するため,市町村が行う学級・講座などへ助成を行っています。また,平成10年度から都道府県が中心となり,大学や市町村などの協力を得て,市町村の行政区域枠を越えた広域的な学習参加の機会(学習サービス)を継続的に提供していくための体制の整備を行う事業に対し,助成しています。
これらの社会教育事業に加え,地方公共団体の首長部局も活発に学習機会提供事業に取り組んでいるほか,公開講座を実施している大学や,財団・社団法人などの公益法人,カルチャーセンターなどの民間の社会教育事業者なども,学習需要に柔軟に対応し,多様で創意ある学習機会を提供しています。
【参考文献】
・ 広がる学び開かれる大学〜生涯学習時代の新しい試み〜 小野元之/香川正弘編著 ミネルヴァ書房
・ 生涯学習と大学〜海外に広がる学習機会〜 平岡篤頼監修/加藤幸男著 早稲田大学出版